森の中の小さな泉
~序章~
“アトピー性皮膚炎”
この言葉を耳にする時、僕はいつも緊張した。
実際僕はそのアトピーの患者の1人であり、物心ついた時にはそれが自分を苦しめていることを知っていた。
今やアトピー患者の数はずいぶん増え、子供の何割かがそれに苦しんでいると聞く。
10年くらい前まではアトピーは子供の病気であり大人になると必ず治ると言われてきた。しかしそう言われながら僕は今年で21歳になる。21歳というのはりっぱな大人である。その21年間僕と僕の母はいろんな健康雑誌を読み漁り、またうわさを聞き様々な治療を経験してきた。僕は小学生の時、夏に鳥取砂丘に行き10時間の風呂に入り、中学の時和歌山のある神社で200回鞭に打たれ、高校生の時には東京のある診療所で中国のえらい坊さんの尿を一気飲みした。それらの方法は初め効果を上げ、アトピーの症状が一瞬消えるのであるが、それをずっと続けていく勇気は僕にはなかった。僕は砂の中で1日の3分の1以上過ごしたくなかったし、鞭に打たれて喜びを見出すほどマゾ気もなく、もちろん他人の尿も飲みたくなかった。それをするくらいならアトピーのままでいいと思った。だから僕は21歳になっても、1日数百回、体のあらゆる部分に痒みを持ち、その痒さの80%に10本の指を使って対抗し、痒さの20%は我慢した。それは僕にとって尿や便を生理的に排出するのと同じような行動となっていた。僕はその行動を無意識に行っていた。“痒い”と意識する以前に僕の右手はその部分を何度も往復していた。そういうことを僕はあまりつらいとは感じなかった。もちろんあまりの痒さに夜眠れない時や、勉強をしたくても激しい痒みのためにそれが出来ない時、僕はなんともいえない苦しい気持ちになった。いっそ痒い部分を小刀で切り裂いて、自分の体をめちゃくちゃにしたいと思うこともあった。しかしそういうことはそう頻繁には起こらなかった。
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